厚生局

個別指導への理解と対策

厚生局は集団指導や個別指導を実施することによって、医療機関へ”教育的な行政指導”を行っています。

そのため、厚生局が実施する指導には重要な役割があり、指導を受ける医療機関にとっては普段行っている業務における書類関係や保険請求のあり方を見直すよい機会にもなります。

今回は、個別指導を中心にその中身をまとめていきますので参考にされてください。

厚生局の実施する各種指導制度の概要

厚生局の実施する指導には「集団指導・集団的個別指導・個別指導」があり、さらに個別指導には”新規指定等向け”のものと”既指定保険医療機関向け”のものがあります。

集団指導

講習会形式で①新規指定時、②指定更新時、③点数改定時など必要に応じて実施されます。

※例:診療報酬改定時の厚生局の説明会

集団的個別指導

類型区分別(病院(歯科除く)、医科診療所、歯科、薬局)に1件当たりのレセプト平均点数が高点数の保険医療機関を対象に、集団部分(講習会形式)と個別部分(個別指導)で行います。

※鹿児島県の場合は集団部分(講習会)のみ

≪個別指導≫

新規指定等

開業後概ね6カ月の医療機関を対象に実施し、被指導者は事前に通知される患者のカルテ等を持参します。

事業継承により開設者・管理者が変更になった場合もこれにあたります。

既指定保険医療機関

患者や保険者・審査機関からの情報、高点数の他、前回の指導で「再指導」とされた保険医療機関が対象になります。

指導で指摘された事項は、過去1年分の自主返還を求められます。

そもそも指導とは何なのか?

そもそも指導とは何なのかということですが、健康保険法第73条、国民健康保険法第41条、高齢者の医療の確保に関する法律第66条を根拠法として実施されるもので、すべての保険医療機関が選定対象(基準に基づき選定)になっているものです。

ちなみに、この行政指導には法律上の拘束力はなく、必ず従わなければならない義務が生じものではありません。

根拠法健康保険法第73条
国民健康保険法第41条
高齢者の医療の確保に関する法律第66条
選定対象すべての保険医療機関(基準に基づき選定)
法的性格保険医の協力に基づく行政指導
→指導結果に法的拘束力無し
→行政措置無し
※2003年6月12日:厚労省 荒木健太郎医療指導監査室長補佐の発言
返還金請求過分について自主返還(原則過去1年分)

行政指導は、処分のように相手方に義務を課したり権利を制限したりするような法律上の拘束力はなく、相手方の自主的な協力を前提としているものです。したがって、行政指導を受けた者にその行政指導に必ず従わなければならない義務が生じるものではありません。(総務省HP、行政手続法Q&A(行政手続法第35条第1項))

自主返還(原則過去1年分)の根拠

本来、指導により不正・不当な診療報酬の請求等が確認された場合の返還金の取扱いについては、民法上の不当利得の返還請求権が発生することになり、返還期間は「10年」ということになります。

ただ、この不当利得返還請求権の行使のためには、裁判上の請求を行う必要があります。

これを行うことは行政側の膨大な事務量のほか、医療機関側においても人的・物的負担が大きいことから、実行上現実的な解決方法の一つとして医療機関が自主点検し善意の受益者の返還義務を果たすということで、一種の和解的な性格の上に成り立っているという理解のもとに「1年以上」としたものです。

自主返還はあくまでも「自主的な返還」。返還の請求に法的根拠無いので、返還理由は明確な説明を求めた上、納得出来なければ容易に返還しないよう注意が必要です。

集団的個別指導に選定されるかの確認方法

まず、各厚生局HPより各都道府県の診療科別平均点数を確認します。

このときに院外処方を実施する場合など補正点数による加算があります。

この補正点数は開示資料で確認できる場合があります。

≪参照方法:鹿児島県の場合≫

九州厚生局 → 業務内容 → 主な業務別情報 → 保険医療機関・保険薬局関係 → 診療科別平均点数一覧表 → 鹿児島県

次に、医療機関の開設者または管理者から、厚生局の指導監査課に電話等で自院の平均点数を照会します。

本人確認の上、厚生局都道府県事務所より補正平均点数と類型区分を電話で回答してくれます。

自院の平均点数が都道府県の平均点数の1.2倍未満なら、そもそも集団的個別指導の対象外になります。

個別指導で保険医に求められるもの

保険診療は健康保険法等の医療保険各法に基づく、保険者と保険医療機関との間の公法上の契約になります。

そのため、保険医療機関の指定や保険医の登録は、医療保険各法等で規定される保険診療のルール(療養担当規則、診療報酬点数表)の熟知が前提となります。

保険診療として診療報酬が支払われるためには、保険医が保険医療機関において

  • 健康保険法、医師法、医療法等の各種関係法令の規定を遵守し
  • 「療養担当規則」の規定を遵守し医学的に妥当適切な診療を行い
  • 診療報酬点数表に定められたとおりに請求を行っている

ことが必須になります。

保険医療機関、保険医は日常的な療養担当規則や診療報酬点数表の理解に努める事が重要

個別指導への理解と対策

個別指導のながれについて

個別指導のながれについて、個別指導当日までのながれと個別指導当日のながれに分けて説明していきます。

個別指導当日までのながれは?

選定方法

再指導の医療機関、情報提供に由来する医療機関などを合わせて、類型区分別に4%に満たないときに高点数医療機関から順次選別します。原則的に情報提供の医療機関を優先実施します。

指導レセプトの選定

保険指導医の専門性や日程等を調整して担当が決定します。指定された連続する2カ月分のレセプトを担当指導医がチェックして30名分のレセプトを抽出します。

実施通知

実施通知は指導日の1か月前にあります。対象患者の通知は、指導日の1週間前に20名分を通知、前日に10名分を通知します。

選定理由の非開示

選定理由の提示を厚労省に要望しているが、患者からの情報提供による個別指導の場合には、情報ソースが医療機関に分かる場合があり、情報ソースを秘匿するために選定理由は非開示とします。

個別指導当日のながれは?

個別指導の進め方

指導日以前の連続した2カ月分のレセプトに基づき、関係書類を閲覧しながら面接懇談形式で実施します。後日、指導結果が結果通知書として送付され、指摘事項に対する改善報告書の提出が求められます。「不当」な事項が確認された場合には、自主点検の上、原則1年分の「自主返還」になります。

当日のながれについて

出席者の紹介・行政職員(厚生局指導監査官、県職員)
・指導医療官(専従or一日技官)
・立ち会い(県医師会、郡市医師会役員)
事務的事項確認・持参物
・届出事項、交付文書、院内掲示
・保険証コピーの取り扱い
・自由診療と保険診療のカルテ区別
・レセプト提出前のチェック、一部負担金の受領
・運用規定、アクセス権限、パスワード管理(電カル)
指導(レセプトとの突合)30例のカルテについて診療、記載内容チェック
休憩一旦、退席(立会いも一緒に退席する)
講評指導を実施したカルテの評価を口頭で伝えられる

希望すれば代理人委任を受けた弁護士の帯同が可能です。ただ、弁護士の発言は原則認められず、弁護士に退席を求めても応じない場合には指導拒否とみなされます。

保険医等自身による指導内容の確認が目的であれば、指導を録音することが認められます。

当日の心構え

個別指導の当日は緊張してしまいますが心構えとしては以下のことが大切です。

  • 正々堂々と答える
  • 質問されたことにのみ回答する
  • 必要のないことは絶対に話さない
  • 堂々とはっきりと答える
  • 否定すべきは否定し正当性を主張する
  • 納得できない場合は根拠や内容を確認する
  • 質問をして例示してもらう
  • ケンカ腰にならない

民間病院では管理者は常にトップの立場なので、常日頃から指摘されることに慣れていません。そのため、指導されることでケンカ腰になる場合があります。指導側が間違っている場合もあるので、納得いかなければ堂々と応答することが大切ですが、「すみません。勉強不足でした。」と抑えることも大切です。

個別指導とその後の措置

個別指導の目的は医療機関の取り潰しではなく、あくまでも”教育的な行政指導”です。

意図的な不正請求などがなければ、さらに厳しく指導を行う「監査」に移行することはないので必要以上に心配することはありません。

ただ、集団的個別指導と個別指導に選定された時点で、制度上は監査に移行し、医療機関の取消処分を受ける可能性もあるということを理解した上で、書類整備の確認や請求方法に誤りがないかを確認しておく必要があります。

個別指導後の措置(指導結果とその内容)

行政上の措置基準4つの措置
1.診療内容および診療報酬の請求が概ね妥当適切であるもの。概ね妥当 ⇨ 概ね終了
2.診療内容および診療報酬の請求が適性を欠く部分が認められるものの、その程度が軽微で理解も十分得られており、かつ改善が期待できそうなもの。経過観察 ⇨ 概ね終了

経過観察の結果、改善が認められないもの

再指導
3.診療内容または診療報酬の請求が適性を欠く部分が認められ、再指導を行わなければ改善状態が判断できないもの。なお、不正または不当が疑われ患者からの聴取が必要な場合は、患者調査を行い、その結果をもとに再指導を行う。また、患者調査の結果、不正または著しい不当が明らかとなった場合は、再指導を行うことなく監査を行う。再指導
or
患者調査 ⇨ 再指導

要監査

監査実施
4.「監査要綱」に定める監査要件に該当すると判断したものは、後日速やかに監査を実施する。なお、指導中に診療内容または診療報酬の請求に明らかに不正または著しい不当が疑われる場合は、指導を中止し、直ちに監査を行うことができる。要監査 ⇨ 監査実施
個別指導後の措置

①指導後の措置(4区分)

概ね妥当経過観察再指導要監査

②指摘事項の通知

改善報告書の提出

④経済上の措置(1年以上の自主返還)

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「要監査」の場合には監査が実施される。

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監査後の措置

①行政上の措置(3区分)

注意戒告取消

②経済上の措置(原則5年間、不正分は140%で自主返還)

③措置の公表・連絡

個別指導の結果が悪いときには「監査」が実施されることもあります。監査は医療機関にとって大きな負担になるため、”監査にならないこと”を最優先に準備を進めることが重要です。

  • 不正、不当が疑われる事例については当該患者に関わったすべての職員からの聞き取りが実施される。
  • 事情聴取はすべての事例で終了するまで日を改めて何度も行われる。
  • 罰則は個別指導よりも重い。
    ・該当の診療報酬について過去5年分(個別指導の場合は原則過去1年分)の返還義務
    ・不正の場合は請求実額の1.4倍の返還義務(不当の場合は1倍)
  • 保険医取消処分の可能性もある。

改善報告書の記載例

改善報告書の記載は何を記載すればよいのか難しく考えてしまいますが、基本的に指摘のあった事項についてオウム返しの内容で問題ありません。

個別指導への理解と対策

上記の改善報告書の内容を下に記載しましたが、赤文字部分は同じ内容の文章になります。

指摘事項改善内容
診療録は、保険請求の根拠となるものなので、医師は診療の都度、遅滞なく必要事項の記載を十分に行うこと。特に、症状、所見、治療計画等について記載内容の充実を図ること。診療録は、保険請求の根拠となるものと認識し、医師は診療の都度、遅滞なく必要事項の記載を十分に行うよう改善しました。特に、症状、所見、治療計画等について充実を図るように改善しました。

個別指導の選定理由

個別指導の選定理由には、「診療報酬の高得点による選定」と「情報提供による選定」の2通りがあります。

診療報酬の高得点による選定

2年前に集団的個別指導に選定されている場合はほぼ「高点数」による選定になります。

集団的個別指導

類型区分別(病院(歯科除く)、医科診療所、歯科、薬局)に1件当たりのレセプト平均点数が高点数の保険医療機関を対象に、集団部分(講習会形式)と個別部分(個別指導)で行います。

※鹿児島県の場合は集団部分(講習会)のみ

情報提供による選定

「診療報酬の高得点による選定」以外の場合は、情報提供の可能性が高いため下記の事項を確認しておくことが重要です。

  • 患者や従業員との間にトラブルはなかったか?
  • 高点数、頻回検査、頻回受診は多くないか?
  • 傾向的な診療、同じ査定が多くないか?
  • 文書指導・文書連絡で同じ指摘、面接懇談による指摘
  • 保険者からの「お尋ね」の手紙による指摘
  • 立入検査での指摘
  • 会計検査院の実施検査による指摘
  • 特定の調剤薬局、整骨院への誘導はないか?
  • 自院の症例と指摘事項を突合する

情報提供で実際にあった事例

情報提供による選定を行う場合には、その情報に不確かなものも多いので地方厚生局は慎重に対応することが多いのが特徴です。

  • 患者からの情報提供
  • 現・元従業員からの情報提供
  • 審査支払機関からの情報提供
  • 仲の良い出入りの業者からの情報提供
  • 同業者からの情報提供(妬みによるもの)
  • 院長のいとこからの情報提供(遺産相続でのもめごと)
  • 離婚した元妻、愛人からの情報提供(経理担当)
  • 保険会社からの情報提供(過剰診療の疑義)
  • 整骨院からの情報提供(同意書の大量交付)

「現・元従業員からの情報提供」は確証が高いため個別指導に選定される確率が高くなります。ちなみに、実名による情報提供の場合には必ず調査を実施します。

「審査支払機関からの情報提供」では以下のようなものがみられます。

  • 毎月の査定事例が多くかつ改善要求(文書指導、文書連絡)をしても改善が図られない
  • 検診、健診のついでに保険診療
  • 入院の必要性に疑問がある
  • 傷病名や診療行為が傾向的
  • 時間外、休日加算、往診がやたらと多い
  • 医学的にみて診療内容に疑問がある
  • 研究目的の診療を保険請求

個別指導への理解と対策:まとめ

個別指導が実施されるときの向き合い方は、必要以上に恐れず「趣旨・傾向」をしっかりつかんだ上で、「監査にならないこと」を最優先に準備することが大切です。

「監査にならないこと」と言っても、意図的な不正請求がない限り監査に移行することはまれです。

ただ、制度上において集団的個別指導、個別指導に選定された時点で「監査」から「取消」になりうる可能性があることは忘れないようにしましょう。