医療療養病床への「医療区分・ADL区分」の導入経緯とその変化
「医療区分・ADL区分」の導入経緯とその変化
「医療区分・ADL区分」は、平成18年7月から医療療養病床で用いられるようになりました。
ちなみに、医療区分・ADL区分による患者様の評価は医療療養病床でのみ行われていることであって、急性期病床や回復期病床などの他の病床では行われていません。
なぜ、療養病床に医療区分・ADL区分が導入されたかの経緯をまとめていきます。
①導入前の医療療養病床
現在、医療療養病床では、患者様の医療必要度と介護必要度の状態を「医療区分・ADL区分等に係る評価票」を用いて評価するように定められています。
そして、その評価の結果によって患者様の入院料が変化する仕組みになっているため、病院の収益も患者様の状態によって増減するようになっています。
ただ、「医療区分・ADL区分等に係る評価票」を導入する前の医療療養病床では、患者様の状態に関わらず包括性(ほうかつせい)として一定の入院費を請求できる仕組みになっていました。
そのため、入院する必要のない軽症の患者様であっても、簡単に入院させて診療報酬を得ている医療療養病床が多くありました。
その結果、医療や看護の必要性がそれほどなく、手のかからない患者を多く入院させ、病院の収益を増やす経営の方法をとっていた療養型の病院が多く存在していました。
そのような状態によって、世間からは「療養病床は社会的入院の温床である」というイメージをもたれていました。
すべての病院が必ずしもそうであったとは言えませんが、そのような患者を入院させ、病院の収益を増やしていた病院が多かったことは事実です。
②9段階の入院基本料の導入(H18.7~R6.5.31まで)
社会的入院の温床であるとされていた療養病床ですが、さすがにこの状態ではいけないと状況の改善が図られ、状況の改善のために平成18年7月より「医療区分とADL区分を用いた9段階の入院基本料の分類制度」が導入されました。
これによって、入院患者様の医療必要度と介護必要度を評価した入院料が取り入れられることになりました。
このときに、医療必要度・介護必要度のそれぞれの評価に用いられるようになったものが医療区分とADL区分です。
医療区分は患者様の医療必要度ごとに医療区分1・医療区分2・医療区分3で評価され、ADL区分は患者様の介護必要度ごとにADL区分1・ADL区分2・ADL区分3で評価されるものです。
そして、療養病棟入院基本料は医療区分3分類とADL区分3分類を組み合わせた9段階に分類されるようになりました。
この9段階の入院基本料は日々の入院費用に関わるものであり、患者様の医療必要度・介護必要度が高いほど入院費用も高くなるように設定されたものになっていました。
医療区分1~3の評価
医療区分は、患者様の医療必要度ごとに医療区分1~3で評価され、医療の必要度が高いほど医療区分3になるように基準が設けられています。
医療の必要度 | 低い | ⇔ | 高い |
医療区分 | 医療区分1 | 医療区分2 | 医療区分3 |
ADL区分1~3の評価
ADL区分は、患者様の介護必要度ごとにADL区分1~3で評価され、介護の必要度が高いほどADL区分3になるように基準が設けられています。
介護の必要度 | 低い | ⇔ | 高い |
ADL区分 | ADL区分1 | ADL区分2 | ADL区分3 |
医療区分・ADL区分を用いた9段階の入院基本料の分類制度
医療区分1~3とADL区分1~3の組み合わせを表にしたものが下のものになります。
医療区分1 ⇩ | 医療区分2 ⇩ | 医療区分3 ⇩ | |
ADL区分3⇨ | 入院基本料G 医療区分1 ADL区分3 | 入院基本料D 医療区分2 ADL区分3 | 入院基本料A 医療区分3 ADL区分3 |
ADL区分2⇨ | 入院基本料H 医療区分1 ADL区分2 | 入院基本料E 医療区分2 ADL区分2 | 入院基本料B 医療区分3 ADL区分2 |
ADL区分1⇨ | 入院基本料I 医療区分1 ADL区分1 | 入院基本料F 医療区分2 ADL区分1 | 入院基本料C 医療区分3 ADL区分1 |
入院基本料はA~Iまでの9段階になっていて、入院基本料Iから入院基本料Aになるほど診療報酬(入院費用)は高くなるように設定されています。
入院基本料が低い | ~ | 入院基本料が高い |
入院基本料I 医療区分1 ADL区分1 | ~ | 入院基本料A 医療区分3 ADL区分3 |
R6.5.31まで使用されていた9段階の入院基本料については、以下の記事をご参照ください。
③導入後の医療療養病床の変化
医療区分・ADL区分が平成18年7月から導入されたことによって、医療療養病床の入院基本料は患者様の医療必要度・介護必要度で日々変化することになりました。
入院基本料は医療必要度・介護必要度が高い患者様ほど大きなものになります。
ちなみに、最も低い入院料(約700点)と最も高い入院料(約1,800点)の差は、およそ1,000点程度の差になるため、1日に約10,000円の入院料の差が発生してしまいます。
これを1月分として考えると約30万円、仮に40床の医療療養病床であれば約1,200万円(30万円×40床)の収益差となります。
少し極端な計算の仕方ですが、入院料の変化は病院の収益にこれだけ大きな影響を及ぼすことになることが分かります。
医療区分・ADL区分の導入によって、医療療養病床では収益を増やして経営を安定させるために、医療必要度・介護必要度の高い患者様を入院させなければならなくなりました。
それとは逆に、社会的入院とされる医療必要度・介護必要度の低い患者様を入院させるほど、病院の収益は減っていくことにもなってしまいました。
この結果、医療療養病床を持つ病院では、病院の収益を増加させるため医療必要度・介護必要度の高い患者様を多く入院するように変化していきました。
医療区分・ADL区分の導入は、医療療養病床に医療必要度・介護必要度の高い患者様の受け入れを加速させることになりましたが、それは「質の高い医療」を求められることにもなったということです。
そして、「医療の質」が求められることになったということは、そこに働く医療従事者のスキルアップも求められることにも繋がりました。
④30分類の入院基本料の導入(R6.6~)
R6.6の診療報酬改定によって、以前の療養病棟入院基本料の評価体系(医療区分・ADL区分に基づく計9分類)が、「疾患・状態の医療区分(1~3)」×「処置等の医療区分(1~3)」×「3つのADL区分」に基づく計27分類に、スモンに関する3分類を合わせた計30分類の評価に精緻化されました。
療養病棟入院基本料の評価体系(医療区分・ADL区分に基づく計9分類)
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「疾患・状態の医療区分(1~3)」×「処置等の医療区分(1~3)」×「3つのADL区分」に基づく計27分類に、スモンに関する3分類を合わせた計30分類の評価
この改定は、これまでの使用されていた医療区分を「疾患・状態」「処置等」の視点で2つに分類したものであり、中心静脈栄養などの項目についての改定はありましたが、全体の内容は大きく変化していません。
ただし、入院基本料が9分類から30分類に変わったことで、病院の収益が以前とどのように変化したのかを確認し、それぞれの病院で対応することが必要になりました。
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処置等 医療区分 3 | 処置等 医療区分 2 | 処置等 医療区分 1 | |
疾患・状態 医療区分 3 | ADL区分 3 2 1 ① ② ③ | ADL区分 3 2 1 ④ ⑤ ⑥ | ADL区分 3 2 1 ⑦ ⑧ ⑨ |
疾患・状態 医療区分 2 | ADL分 3 2 1 ⑩ ⑪ ⑫ | ADL区分 3 2 1 ⑬ ⑭ ⑮ | ADL区分 3 2 1 ⑯ ⑰ ⑱ |
疾患・状態 医療区分 1 | ADL区分 3 2 1 ⑲ ⑳ ㉑ | ADL区分 3 2 1 ㉒ ㉓ ㉔ | ADL区分 3 2 1 ㉕ ㉖ ㉗ |
スモン |
ADL区分 3 2 1 ㉘ ㉙ ㉚ |
まとめ
「①導入前の医療療養病床」「②9段階の入院基本料の導入(H18.7~R6.5.31まで)」「③導入後の医療療養病床の変化」、この3段階の経過を経て、現在の「④30分類の入院基本料の導入(R6.6~)」に至りました。
これによって、医療療養病床は過去の社会的入院の温床であった状態から、長期的に医療・介護の必要な患者様を受け入れる病床へと大きく変化することになりました。
この医療療養病床にもたらされた変化は、医療療養病床の「医療の質」を高めることに繋がり、そこで働く医療従事者のスキルアップにも繋がりました。
令和6年6月から30分類の入院基本料が導入されましたが、9段階の入院基本料に比較して医療療養病床の収益にどのような変化をもたらすのかをシュミレーションし、入院患者様を受け入れていく必要があります。
誰が入院しても包括性で収益は変化しない
手のかからない患者を入院させる
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社会的入院の温床
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「医療区分・ADL区分による9段階の入院料」を導入
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入院患者の医療区分・ADL区分で病床の収益が変化
医療・介護必要度の高い患者の方が収益が大きい
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「医療・介護必要度の高い患者を入院させる必要性」
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医療療養病床の「医療の質」を高める必要性
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質の高い医療・医療従事者のスキルアップ
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「入院料が9分類から30分類へ改定」
[令和6年5月31日まで]
医療区分1~3 × ADL区分1~3 = 9分類
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[令和6年6月から]
医療区分を「疾患・状態」「処置等」の2つに分類
医療区分1~3(疾患・状態) × 医療区分1~3(処置等) × ADL区分1~3 = 27
上記の27分類に、スモンに関する3分類を合わせた計30分類