医療療養病床における「包括項目」
医療療養病床では、一部の医療行為や薬剤の投与について包括項目として療養病棟入院基本料に含まれるように決められています。
どのような医療行為や薬剤の投与が包括項目として定められているのかをしっかりと確認しておきましょう。
今回は、『医療療養病棟における包括項目』について解説していきます。
包括とは、”全体をひっくるめてまとめること”を意味しています。
診療報酬での包括とは「その医療行為が入院基本料に含まれて算定できない」 「入院基本料にまとめられている」ということを意味しています。
この包括項目は、病院内ではよく「まるめ」という言葉で表現されます。
医療の現場において「まるめ」である医療行為は、その患者様に必要な医療行為であっても、包括項目に含まれているものであれば医療費として算定することはできません。
医療療養病床における「包括項目」
患者様の状態により、医療行為や処置が必要であって実施したとしても、入院基本料に含まれるため算定できないもの
医療療養病床では、療養病棟入院基本料(特別入院基本料を含む。)を算定する患者様に対して、「検査・投薬・注射・画像診断・処置」について包括項目が定められています。
この包括項目の存在は、医療療養病床での医療サービスの提供の縮小を招くため質の低下を招くように感じますが、長期的な療養を目的とし病状も大きく変化しない慢性的な患者様に対し、過剰な医療サービスの提供が行われないようにするためのものでもあります。
もちろん、すべての医療行為が包括項目に含まれるわけではないので、包括されない項目の医療行為については、入院基本料と別に算定することが可能です。

包括項目①:画像診断
写真診断・撮影[単純撮影(エックス線診断料に係るものに限る。)に限る。]
エックス線診断料に係る単純撮影とは、胸部レントゲン撮影などの単純レントゲン撮影がそれにあたります。
そのため、医療療養病床において胸部レントゲン撮影や股関節頚部骨折の手術後のレントゲン撮影などを行ったとしても入院基本料に含まれることになります。
医療療養病床でよく行われる包括される画像診断
- 胸部レントゲン撮影
- 腹部レントゲン撮影
- 肩関節撮影
- 膝関節撮影
- 股関節撮影 など
包括項目②:処置
- 創傷処置(手術日から14日以内のものを除く。)
- 喀痰吸引
- 摘便
- 酸素吸入
- 酸素テント
- 皮膚科軟膏処置
- 膀胱洗浄
- 留置カテーテル設置
- 導尿
- 膣洗浄
- 眼処置
- 耳処置
- 耳管処置
- 鼻処置
- 口腔、咽頭処置
- 間接喉頭鏡下喉頭処置
- ネブライザー
- 超音波ネブライザー
- 介達牽引
- 消炎鎮痛等処置
- 鼻腔栄養
- 長期療養患者褥瘡処置
医療療養病床では高齢者の入院が多く、その中には寝たきりで酸素吸入や喀痰吸引が必要な患者様や、経鼻経管栄養が必要な患者様もいます。
そのような患者様への処置の多くは、包括項目に含まれているため算定することはできません。
包括項目③:薬剤
医療療養病床における包括項目において、薬剤は特定の薬剤以外のものを包括項目として定めています。
そのため、ここでは療養病棟入院基本料に包括されない薬剤を記載します。
抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対して投与された場合に限る。)及び疼痛コントロールのための医療用麻薬
療養病棟入院基本料では、
- 抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対してのものに限る)
- 疼痛コントロールを目的とした医療用麻薬
については、入院基本料に含まずに算定することが可能であり、これらの薬剤以外のものは包括項目に含まれることになります。
包括項目④:注射薬
医療療養病床における包括項目において、注射薬は特定の注射薬以外のものを包括項目として定めています。
そのため、ここでは療養病棟入院基本料に包括されない注射薬を記載します。
抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対して投与された場合に限る。)、エリスロポエチン(人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに投与された場合に限る。)、ダルベポエチン(※人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに投与された場合に限る)、エポエチンベータペゴル(※人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに対して投与された場合に限る)、及び疼痛コントロールのための医療用麻薬
療養病棟入院基本料では、
- 抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対してのものに限る)
- エリスロポエチン(人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに投与された場合に限る)
- ダルベポエチン(人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに投与された場合に限る)
- エポエチンベータペゴル(人工腎臓、又は腹膜潅流を受けている患者のうち、腎性貧血状態にあるものに対して投与された場合に限る)
- 疼痛コントロールを目的とした医療用麻薬
については、入院基本料に含まずに算定することが可能であり、これらの注射薬以外のものは包括項目に含まれることになります。
包括項目⑤:その他の薬剤及び注射薬
- インターフェロン製剤(※B型肝炎又はC型肝炎の効能若しくは効果を有するもの)
- 抗ウイルス剤(※B型肝炎、又はC型肝炎の効能、若しくは効果を有するもの、及び後天性免疫不全症候群、又はHIV感染症の効能、若しくは効果を有するもの)
- 血友病の治療に係る血液凝固因子製剤及び血液凝固因子抗体迂回活性複合体
療養病棟入院基本料では、
- インターフェロン製剤(B型肝炎又はC型肝炎の効能若しくは効果を有するもの)
- 抗ウイルス剤(B型肝炎、又はC型肝炎の効能、若しくは効果を有するもの、及び後天性免疫不全症候群、又はHIV感染症の効能、若しくは効果を有するもの)
- 血友病の治療に係る血液凝固因子製剤及び血液凝固因子抗体迂回活性複合体
については、入院基本料に含まずに算定することが可能であり、これらの注射薬以外のものは包括項目に含まれることになります。
包括項目を算定することができる場合
医療療養病床においては、通常「包括項目」は入院基本料に含まれるため算定することはできません。
ですが、「患者様の急性増悪により一般病棟へ転棟・転院したとき」には3日前までさかのぼり包括項目を算定することが可能になります。
ただし、その場合には患者様がどの医療区分やADL区分の状態であっても「入院基本料I」を算定しなければいけません。
また、算定可能な日数は、同一の保険医療機関の一般病棟へ転棟する場合にはその前日を1日目として3日前までの間、別の保険医療機関の一般病棟へ転院する場合にはその当日を1日目として3日前までの間となります。
入院基本料I+包括項目の算定
- 同じ医療機関の一般病棟へ「転棟」する場合、転棟する1日前・2日前・3日前
- 別の医療機関の一般病棟へ「転院」する場合、転院日・1日前・2日前
医科点数表の解釈には「患者の急性増悪により、療養病棟入院基本料を算定する病棟において、同一の保険医療機関の一般病棟へ転棟又は別の保険医療機関の一般病棟へ転院する場合であって、療養病棟入院基本料の入院料Iを算定した場合には、その医療上の必要性を記載すること。」と記載されています。
同じ医療機関の一般病棟へ「転棟」する場合
療養病棟 | 一般病棟 (同じ医療機関) | |
---|---|---|
区分に合わせた入院基本料 | ー | |
区分に合わせた入院基本料 | ー | |
3日前 | 入院基本料I+包括項目 | ー |
2日前 | 入院基本料I+包括項目 | ー |
1日前 | 入院基本料I+包括項目 | ー |
転倒日 | ー | 一般病棟入院基本料 |
ー | 一般病棟入院基本料 | |
ー | 一般病棟入院基本料 |
同じ医療機関の一般病棟へ「転棟」する場合、転棟する1日前・2日前・3日前において、「療養病棟入院基本料I+包括項目」での算定が可能になります。
転棟日の1日前・2日前・3日前となっているのは、同じ医療機関で入院基本料の算定が重複して行われないようになっているからです。
医科点数表の解釈には、「同一保険医療機関内の病棟(病室及び治療室を含む。)ら病棟(病室及び治療室を含む。)に移動した日の入院料の算定については、移動先の病棟(病室及び治療室を含む。)の入院料(入院基本料又は特定入院料)を算定する。」と記載されています。
同じ病院内の病棟から病棟への移動については、移動した日の入院基本料は、移動先の病棟の入院基本料を算定する。
別の医療機関の一般病棟へ「転院」する場合
療養病棟 | 一般病棟 (別の医療機関) | |
---|---|---|
区分に合わせた入院基本料 | ー | |
区分に合わせた入院基本料 | ー | |
区分に合わせた入院基本料 | ー | |
2日前 | 入院基本料I+包括項目 | ー |
1日前 | 入院基本料I+包括項目 | ー |
転院日 | 入院基本料I+包括項目 | 一般病棟入院基本料 |
ー | 一般病棟入院基本料 | |
ー | 一般病棟入院基本料 |
別の医療機関の一般病棟へ「転院」する場合、転院日・1日前・2日前において、「療養病棟入院基本料I+包括項目」での算定が可能になります。別の医療機関との間での患者の移動においては、入院基本料の算定が重複して行うことが可能になっています。
医療療養病床における「包括項目」|まとめ
医療療養病床では、入院中に実施されるほとんどの医療行為や薬剤の投与が「包括項目」として療養病棟入院基本料に含まれています。
ただ、包括項目に含まれていない医療行為や入院期間があるので算定漏れがないように気を付けておく必要があります。
また、包括項目であったとしても診療録への記載がいらないわけではないので、行った医療行為については診療録へしっかり記載しておきましょう。