医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(2月13日付)
日本環境感染学会より、2月13日付で新型コロナウイルスに対する表記対応ガイド第1版が発出されました。
このガイドは、新型コロナウイルス感染症が拡大した場合の国内の医療現場の混乱を防ぎ、適切な対応を取ることを目的に作成されています。
なお、今回記載するものはガイドの概要になります。
ウイルスの特徴
ヒトに感染するコロナウイルスは、今まで6種類のものが知られていました。
- 風邪のウイルス4種類
- 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CcV)
- 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)
新型コロナウイルス(COVID-19)は、これら6種類のコロナウイルスとは異なるウイルスであり、主に呼吸器感染を起こし、病原性はMERSやSARSよりも低いレベルと考えられています。
- 主に呼吸器感染
- MERS、SARSに比べて低いレベル
致死率と感染力
致死率においては、中国湖北省で2%超という数値が示されていますが、中国湖北省以外および国外では、それよりも低い数値となっています。
新型コロナウイルスは、飛沫および接触によりヒト-ヒト感染を起こすと考えらていますが、空気感染は否定的です。
感染力は、一人の感染者から2~3人程度に感染させると言われています。
臨床的特徴(病態、症状)
新型コロナウイルス感染症について、主な症状と具体的な症状とで分けて説明します。
主な症状
新型コロナウイルスは、呼吸器系の感染が主体です。
ウイルスの主な感染部位によって、
- 上気道炎
- 気管支炎
- 肺炎
を発症すると考えられます。
新型コロナウイルスに感染した方全員が発症するわけではなく、無症状で経過してウイルスが排除される例も存在すると考えられます。
具体的な症状
感染者の症状としては、
- 発熱
- 咳
- 筋肉痛
- 倦怠感
- 呼吸困難 など
が比較的多くみられ、
- 頭痛
- 喀痰
- 血痰
- 下痢 など
を伴う例も認められます。
肺炎の発症
一般的に、呼吸困難を認める場合には、肺炎を発症しているものと推測されますが、上気道炎の症状が主体であっても肺炎の存在が確認される例や、1週間以上の上気道炎症状が続いた後に肺炎が出現する例もあります。
重症例と死亡例
少数ながらみられる重症例は、肺炎を発症していると考えれらます。
さらに、死亡例ではARDS(急性呼吸窮迫症候群)、肺血症、肺血症性ショックなどの合併が考えられます。
臨床的診断
新型コロナウイルス感染症に特異的な症状や所見はありません。
本ウイルスに感染した方に認めやすい症状の特徴としては、長く続く発熱と強い倦怠感であると言われています。
ただし、症状のみで臨床的に診断を確定をすることはできませんので、症状、診察所見および各種検査所見を踏まえて、まず他の呼吸器感染症との鑑別が重要です。
特に類似した症状を示すインフルエンザや他の感染症については、抗原検査等を行って除外診断を行う必要があります。
長く続く発熱・強い倦怠感
⇩⇩⇩⇩
呼吸器感染症との鑑別
インフルエンザなどとの除外診断
肺炎の有無の確認
さらに、臨床的に重要なのは、肺炎の有無を確認することです。
疑わしい場合には、胸部X線あるいは胸部CT検査の検査を行う必要があります。
また、肺炎と診断された場合には、他の原因病原体の検索を併せて行う必要があります。
- 肺炎球菌
- レジオネラ属菌の尿中抗原検出
- マイコプラズマ遺伝子検出
- 呼吸器検体の培養
- 血液培養 など
ウイルス学的診断
新型コロナウイルスが患者検体から検出されれば、確定診断が付き「確定例」として扱われます。
呼吸器感染症を認め、武漢を含む中国湖北省の滞在歴があっても、ウイルス検査が行われていない段階では「疑い例」となります。
なお、濃厚接触とは、新型コロナウイルス感染症が疑われるものと同居、あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があったものが範囲に該当します。
新型コロナウイルス感染症が疑われるものと
- 同居
- 長時間の接触(車内、航空機内等含む)
新型コロナウイルス感染症の確定例、疑い例、非該当例への外来・入院対応
新型コロナウイルス感染症の確定例、疑い例、非該当例への外来・入院対応については、下記の表のようになっています。
確定例・疑い例・非該当例の定義
分類 | 37.5℃以上の発熱と肺炎を疑う呼吸器症状 | 湖北省への渡航歴・湖北省に滞在歴のある人の濃厚接触 | 新型コロナウイルスの検出 |
確定例 | あり | あり | 検出済み |
疑い例 | あり | あり/なし ※1 |
検査対象 |
非該当例 | あり | なし | 検査対象外 |
※1:渡航歴や濃厚接触がなくても、原因不明の肺炎であれば、新型コロナウイルスの検査対象となる場合があります。
外来・入院への対応
分類 | 外来に対応する医療機関 | 入院に対応する医療機関 ※2 |
確定例 | 指定医療機関 | 指定医療機関 |
疑い例 | 帰国者・接触者外来を有する医療機関 | 指定医療機関、または帰国者・接触者外来を有する医療機関 |
非該当例 | 一般の医療機関 | 一般の医療機関 |
※2:緊急、その他やむを得ない場合につき、感染症指定医療機関における感染症病床以外に入院させること、または感染症指定医療機関以外の医療機関に入院させることが可能となっています。
ウイルス検査について
ウイルス検査には、PCR法など拡散増幅法が用いられており、医療機関から疑似症と保険所に届出後、地方衛生研究所または国立感染研究所で検査が実施されます。
治療・予防
現時点における治療の基本は対症療法です。
肺炎を認める症例などでは、必要に応じて輸液や酸素投与、昇圧剤等の全身管理を行います。
細菌性肺炎の合併が考えられる場合には、細菌学的検査の実施とともに、抗菌薬の投与が必要と思われます。
肺炎例や重症例に対しての副腎皮質ステロイドの投与については、現時点での有効性を示すデータは無く推奨されません。
また、新型コロナウイルスのワクチンは存在しません。
感染対策
感染対策については、以下の3つが挙げられます。
- 標準予防策の徹底
- 感染経路別予防策
- 外来患者への対応
① 標準予防策の徹底
新型コロナウイルス感染症に対して、感染対策上重要なのは、まず呼吸器衛生・咳エチケットを含む標準予防策の徹底です。
ウイルスを検出する検査を行わなければ感染例と非感染例を明確に区別することはできないので、全ての患者の診療において、状況に応じて必要な個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)を選択して、適切に着用します。
コロナウイルスはエンベロープを有するため、擦式アルコール手指消毒薬は、新型コロナウイルスの消毒にも有効です。
手指衛生は適切なタイミングで実施します。
- 呼吸器衛生
- 咳エチケット
- 個人防護具の着用
- 擦式アルコール手指消毒薬
② 感染経路別予防策
新型コロナウイルスの感染確定例、および疑い例に対しては、飛沫感染予防策と接触感染予防策の適応になります。
気道吸引、気管挿管などエアロゾルが発生しやすい状況においては、医療スタッフはゴーグル・ガウン・手袋に加えて、N95マスクの装着が推奨されます。
- 飛沫感染予防策
- 接触感染予防策
エアロゾルが発生しやすい状況
- ゴーグル
- ガウン
- 手袋
- N95マスク
③ 外来患者への対応
現時点では、発熱や呼吸器症状を訴える患者が外来を受診しても、新型コロナウイルス感染症の患者に遭遇する確率は、かなり低いと考えられます。
通常の一般外来で発熱患者に対応する職員は、常時マスクを着用し、手指衛生の徹底をはかります。
事前に感染リスク(湖北省への渡航歴、または湖北省に滞在歴のある人との濃厚接触)があることを申告して受診される場合には、他の患者と導線を切り離して対応できる場所を確保し、診療を行うことが望ましいと考えられます。
疑い例の定義に合致する患者に対応する医療スタッフは、それぞれの曝露リスクと施設の基準に応じて、個人防護具を装着します。
特に、エアロゾル発生手技(例:気道吸引や気管挿管など)では、N95マスクの装着が推奨されます。
外来に多くの発熱患者が訪れた場合には、インフルエンザ流行期の対応に準じて、外来で適切な場所を確保し、他の患者との距離を保つように工夫します。